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ただの友だち……だよ? PAGE3

last update Last Updated: 2025-05-16 09:24:02

「でも、『絢乃さんを助けたい』とか『守りたい』って気持ちだけは誰にも負けなかったなぁ。……あ、矢神さんもSNSで見た? 桐島くんがイケメン俳優を蹴り飛ばした動画」

「はい、見ました。桐島主任って、何か格闘技やってらっしゃるんですか?」

 よっぽど大柄な人でもない限り、何もやっていないのにあれだけのキック力があるっていうのはあり得ない。そう考えるのが自然だと思う。

「うん。去年の夏ごろからキックボクシングを習ってるらしいよ。それも会長を守るためなんだって」

「へえ……、そうなんですね。大切な人を守るためにそこまでできちゃう主任って、やっぱりカッコいいです」

「ねえ、矢神さんにはホントにそういう人いないの? でも、あなたのことを守りたくて頑張ってる人なら身近にいるんじゃない?」

「え……?」

 小川先輩にそう言われて、どうしてだかパッと頭に浮かんだのは入江くんの顔だった。そして、エレベーターで佳菜ちゃんに言われたあの言葉。

 ――『麻衣はともかく入江くんは絶対、麻衣に気があるよね』――……

 やっぱり佳菜ちゃんの言うとおり、入江くんはわたしのことを……?

「…………矢神さん、どうかした?」

「……えっ? わぁぁっ!? しゅ、主任! いいいえ、なな何でもないですっ!」

 心配して声をかけて下さったのは小川先輩だと思ったら桐島主任だったので、わたしは思いっきり動揺して慌てふためいた。

「なんか、二人で僕のことを話してるように聞こえたんだけど。違いましたっけ、先輩?」

「ああ、大丈夫よ桐島くん。あなたのことを話してたのは事実だけど、悪口は何も言ってないから。ね、矢神さん?」

「あー……、はい。わたしも主任みたいな秘書になりたいなぁって言ってただけです」

 小川先輩が主任のことを「ポンコツ」と言っていたことは、お二人の先輩後輩の関係を悪化させないためにも言わないでおこうと思う。……ちなみに、さっきまでの会話の内容までは、主任の耳には入っていなかったらしいのでホッとした。

「そっか。僕に憧れてくれてるんだね。ありがとう」

「ああ、いえ。そんな……」

 小川先輩から聞いた主任のエピソードから、「秘書にとっていちばん大事なのはボスへの〝愛〟」という意味がわたしには少し分かった気がした。

 そして、こうも考える。もし入江くんが本当にわたしのことを好きなら、彼はわたしを宮坂くんから守る
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  • 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~   ただの友だち……だよ? PAGE6

     歌っている間、入江くんと佳菜ちゃんが親しげに話している姿が目に入ってきて、わたしは何だかモヤモヤした気持ちになっていた。 ……これっていわゆる〝嫉妬〟? 二人は今日が初対面だし、入江くんにも佳菜ちゃんにもその気がないことはわたしも分かっているけれど……。「……ふぅ~~、疲れた~!」 歌い終わったわたしはもうヘロヘロになっていて、声も若干嗄(か)れかけている。「麻衣、お疲れさん。喉渇(かわ)いたでしょ。これ飲んで少し喉休めな。あたし、一人で歌える別の曲、割り込みで入れたから」「うん、ありがと……」 わたしは佳菜ちゃんが勧めてくれたグラスのウーロン茶をガバッと一気に三分の一くらい呷(あお)った。ちなみに、ゴハンの時もカラオケに来てからも、三人ともお酒は飲んでいない。わたしはお酒に弱いし、明日も出勤なので酔い潰れている場合じゃないからだ。佳菜ちゃんはメロンソーダで、入江くんはコーラを飲んでいる。「――じゃああたし、歌ってきま~す♪」 佳菜ちゃんが歌いに行って、ソファーではわたしと入江くんが二人きりになった。もしかしたら彼がわたしのことを好きなのかも……と思ったら、何だかイヤでも彼

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     ――午後からは、実際に主任や先輩たちが秘書として働いているところをメモを取りながら見学させてもらうことになった。 会食のお供で会長と外出し、戻ってきていた桐島主任は給湯室で、お茶やコーヒーを淹れるところをわたしたち新人に披露して下さったのだけれど、それがすごくサマになっていてカッコいい。たかがお茶くみ、されどお茶くみ。これも立派な秘書の仕事なんだと改めて感服した。「昔は『お茶くみは女子の仕事だ』って言われてたものだけど、それって『女はお茶くみをやるくらいしか役に立たない』って意味だとは僕は思ってないんだ。ちゃんとこだわりやプライドを持ってやれば、これも立派な仕事になる。……まあ、僕自身が昔バリスタを目指してたからでもあるんだけどね。だから、お茶くみを軽々しく考えてもらいたくないんだ」「主任、バリスタ志望だったんですか? カッコいい……」 わたしは思わずこの人が黒いエプロンをして喫茶店のカウンターでコーヒー豆を焙煎(ばいせん)している姿を想像してしまい、心の声が漏れてしまった。「うん、高校生くらいの頃の話だけどね。……そんなにカッコいいかな」 主任は少し照れているように見える。こういう姿を「カッコい」と評されることはあまりないのだろう。「はい。どんな仕事にも真摯に向き合ってる姿、わたしはカッコいいしステキだと思います。それだけプライドを持って取り組んでらっしゃるんだな、と思って」「ありがとう、矢神さん。会長にもよく言われるよ。……コーヒーとかお茶ってね、けっこう奥が深いんだ。お出しする相手によって、好みも様々だから。濃さや温度、

  • 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~   ただの友だち……だよ? PAGE1

    「桐島さん、なんであんなに強いのかなー? 何か格闘技系やってるとか、麻衣は何か聞いてる?」 佳菜ちゃんはズバリ、わたしが今感じたのと同じ疑問を口にした。やっぱり彼女はわたしと友だちになる運命だったのかも。ちょっとシンパシーを感じてしまった。「ううん。だって、まだそういう踏み込んだ話は聞いてないもん。でも、小川先輩に訊いたら教えてくれそう。あとは……会長への愛なんじゃないかな」「愛、ねえ。あたし、まだそこまでできるような相手には出会えてないわー。麻衣もでしょ?」「うん……」 実はすごく恥ずかしいのだけれど、わたしはこの二十三年間でまだ一度も本気で恋をしたことがないのだ。たとえば、クラスメイトのイケメンの男の子を「カッコイイな」と思ったことはあるけれど、その程度。それが恋なのかどうかはわたしにも分からない。「でも、あたし思うんだけどさぁ。麻衣はともかく入江くんは絶対、麻衣に気があるよね」「…………えっ?」 わたしはまたビックリして、佳菜ちゃんを二度見した。というか、もし本当だったら、今日初めて会ったばかりの佳菜ちゃんにまで見抜かれてしまう入江くんの分かりやすさって……。「それは……、わたしもだいぶ前から何となく気づいてはいたけど。そんなんじゃないと思う。入江くんがわたしに何かと世話を焼いてくれるのは、ただわたしが危なっかしくて放っておけないからで」「そうかもしんないけどさぁ」「わたしと入江くんは、ただの友だちだよ。少なくともわたしはそう」 今までだって、わたしと彼はそういう距離感でやってきたからうまくいっていたのだ。彼のわたしへの気持ちを知ってしまったら、そして、わたしも彼に恋心を抱いてしまったら、その絶妙な距離感が崩れてしまいそうで怖かった。「……う~ん、麻衣がそこまでキッパリ言うなら、あたしもこれ以上はツッコまないことにするよ。外野のあたしがやいやい言うことじゃないしねー」「うん……。佳菜ちゃん、ゴメンね。気を悪くしちゃったかな」「ううん、そんなことないよ。気にしないで。――あ、あたしここだから降りるわ。じゃあ、また後でラインするね」 気がついたら、エレベーターは三十階に着いていた。「うん。じゃあ、午後のお仕事もお互いに頑張ろうね」 わたしがそう言うと、彼女は軽くファイティングポーズをしてエレベーターを降りていった。「――入江

  • 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~   お仕事スタート! だけど…… PAGE8

    「――ところで入江くん。宮坂くんも就職してたら今日入社式のはずだよね? なのに、こんなにしょっちゅう電話かけてきたりメッセージ送ってきたりしてて大丈夫なのかな?」 わたしは佳菜ちゃんには聞こえないように、入江くんを彼女から離れた場所に手招きして訊ねてみた。「あれ、お前知らなかったのか。アイツさあ、今就職浪人中なんだよ。まあ、ロクに就活もしねえで好きな女追っかけ回してたらそうなるわな」「就職浪人……。そっか、なるほど。だから時間の感覚がズレてるんだ。でも、相手の都合とか考えないのかな。わたし、すごく迷惑なんだけど」 迷惑なのは事実だけれど、これだけ無視し続けると、さすがに知らんぷりを続けているわたしの方が悪いのかな、とも思えてきてしまう。「それを考えねえからストーカーなんだろ。アイツに常識が欠落してるだけで、お前は間違ってねえから気にすんなよ」「うん……、そうだね。わたし、自分も悪いのかなって思っちゃって」「お前はまたそうやって自分を責めるだろ。いいか、矢神。お前は何も悪くないから。むしろ被害者じゃん。そんな責任感じることなんかねえって。なっ?」「…………はい」 入江くんの含めるような言い方が何だか学校の先生みたいで、わたしは嬉しかったけれどちょっと笑ってしまった。「でも入江くん、どうしていつもそんなにわたしに優しいの?」 佳菜ちゃんのいるテーブルへ戻る途中、思いきって彼に訊いてみたけれど、彼は「……まあ、別にいいだろ」とごまかすだけだった。「あ、二人ともお帰りー。あたしだけのけ者にして、何の話してたのー? もしかしてラブラブなお話?」「……違(ち)っげえよ! そんな浮かれた話じゃなくて、矢神がス――」「あっ、別にそんなんじゃないの。ただ、佳菜ちゃんは大学が違ったから。ちょっと内輪の話をね」 わたしのストーカー被害の話を佳菜ちゃんにしようとした入江くんを、わたしは遮った。できることなら、この件に佳菜ちゃんまで巻き込みたくないのだ。「ふーん? ま、いいけど。なぁんだ、二人のラブラブ話じゃないのか。つまんない」「『つまんない』とは何だ。コイツはなぁ、お前みたいなお気楽じゃねえんだよ。重大な悩み事を抱えててだな――」「ストーーップ! 入江くん、その話はもういいから! これ、さっさと食べて仕事に戻ろ! ねっ!?」 今度こそ、わたしが抱え

  • 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~   お仕事スタート! だけど…… PAGE7

    「でも、マジでいいなー。桐島さんって麻衣の直属の上司でもあるわけでしょ? あんなにイケメンでカッコいい人が上司なんて羨まし~」 佳菜ちゃんの目が、心なしかハートマークになっている気がするのはわたしの気のせい?「……えっ、そ……そうかなぁ?」「うん。だってね、労務課の上司とか先輩にあんなイケメンいないもん。あそこの部署、イケメン指数でいったらハズレだわ。目の保養にもなんない」「お前なぁ、そんなんで自分の部署を当たりとかハズレとか言うなよ。お前はマンハントしたくてこの会社に入ったのか?」「そ……っ、そんなわけないじゃん! でもさぁ、目の保養くらいは欲しいでしょ。入江くんだってさ、可愛い女子とかキレイな女性の先輩とかいた方が嬉しいんじゃないの?」「別にそんなこと思わねえし。オレをお前と一緒にすんなよ。オレにはもう、気になる女が――」「ん?」「……いや、何でもねえよ」 わたしは入江くんに見つめられた気がして小首を傾げたけれど、彼は気まずそうにわたしから目を逸らした。「――あ、桐島さんっていえばさぁ。総務でオレの教育係やってくれてる久保(くぼ)さんって男の先輩がいるんだけど、その人桐島さんの同期らしくてさぁ。異動前の桐島さんと総務で一緒に働いてたんだってさ」「ああ、その話、わたしも秘書室の小川さんっていう先輩から聞いたよ。桐島主任、あのひどいパワハラに必死に耐えてたって。で、先代が余命宣告受けて、絢乃会長が後継者になるだろうと思って秘書室に異動することに決めたんだって」 わたしは主任のそんなエピソードからも、絢乃会長への深い愛情を感じてちょっと胸が締め付けられた。これって嫉妬なのかな……?「ねえねえ、入江くん。その久保さんってイケメン? 彼女いる?」 佳菜ちゃんはというと、わたしたちの予想の斜め上の反応をした。勢いよく身を乗り出した彼女に、入江くんが思いっきり引いている。「えっ!? ……ま、まあイケメンなんじゃねえの? 彼女いるかどうかなんて知るかよ。でも、桐島さんとはだいぶタイプ違うぞ? なんかチャラチャラしてて、女ウケはするタイプに見えるけど」「そっか、彼女の有無は分かんないわけね? じゃあ、あたしにもワンチャンあるかも♪ ね、紹介して?」「……ああ、まぁ……そのうちな」「…………」 彼の返事に、わたしはこっそり天を仰いだ。わたしは

  • 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~   お仕事スタート! だけど…… PAGE6

    「やっぱり……、入江くんの提案どおり、着拒とブロックしとこうかな」「後が怖いって思ってるなら、ムリにすることねえって」「……うん、そっか」 わたしはやっとスマホをポケットにしまった。ちなみに、秘書室には個人のロッカーが完備されていて、わたしはお財布だけ持ってきてバッグはそこに置いてきている。 ――と、そこへやっと佳菜ちゃん合流。「麻衣、入江くん、お待たせ~! どれも美味しそうだったけどオムライスにしたんだ」「中井、お前どんだけ迷ってんだよ」 佳菜ちゃんは入江くんが呆れているのも構わず、わたしの隣りの席に腰を下ろした。「麻衣はカレーかぁ。カレーの匂いってめちゃめちゃ食欲刺激されるよね。あたしもカレーにすればよかったかな」 彼女はそんなことを言いながらも、美味しそうにオムライスを食べている。でも、メニューを決めるのにさんざん迷ったという佳菜ちゃんの気持ちはわたしにも分からなくはない。だって、ここの社食のメニューはどれも本当に美味しそうなんだもの。実はわたしもけっこう迷っていたのだ。「――そういや麻衣、あの可愛い会長さんにはもう会えた? 秘書室って会長室のお隣りさんでしょ? いいなー」 佳菜ちゃんの「いいなー」は、会長に憧れているからなのか、それともイケメン秘書の桐島主任が気になるからなのかどっちなんだろう?「うん。あの人、間近に見ても可愛いしキレイだったよ。それに柑橘系のコロンつけてるのか、爽やかでいい香りがしたの。あと、婚約者の桐島主任にプレゼントされたっていう婚約指輪もしてた」「へぇー、会長と桐島さんってホントにラブラブなんだね。そういやあたし

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